2014年6月14日土曜日

 金曜の夜。
 繁華街で待っている沢山の人々のことを想像しながら、龍太郎はタクシーを走らせる。郊外の暗い道。道を照らすのは自分の車のライトだけだ。
(今夜はしくじったな…)
 繁華街に戻ろうとするたびにお客さんから手が挙がり、繁華街から引きはがされ郊外に走っていく。そんな夜だった。

 夜も白み始めた頃、ようやく繁華街へ戻った。しかし、既にタクシーを求める人は少ない。乗務終了時間も近い。(今夜は終了だ。)
 帰ろうとした時に、お客さんらしき人を見つけた。手が挙がった。車を停める。仕事を終えて帰宅しようとするママさんの雰囲気。(遠くへは行かないな。逆方向にも行かないだろう。)
「近いけどいいですか?」
「どうぞ。ありがとうございます。」
「○○まで。」
「かしこまりました。」(予想通りだ。)
 道順を確認し、発進、メーターを入れる。
「この時間はもう明るいんですね。あー、月が奇麗。」
「お客様もお奇麗ですよ。」
「ふふ。月と言えば、土地を買ったんですよ。」
「どのくらい買われたんですか?」
「2エーカー。数千円でした。」
「エーカーなんですね(16反くらいか?)。地球から見えるところなんですよね?」
「もちろん。地図もあるんですよ。」
「面白いですね。」
「いつか別荘が建てられたらいいな。」
ほどなく目的地に到着。支払いを終えてお客様が降車。
「おやすみなさい。」
「おやすみなさいませ。」
「明日も月が奇麗かしら?」
「奇麗だといいですね。」(お客様の心が奇麗ですよ。)
 穏やかな気持ちに包まれ、龍太郎は回送表示にして帰り始めた。

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(このエントリーには妄想が含まれています。)